【第Ⅰ編 設計・施工基準】 1.概要  1.1 アルカリ骨材反応  1.2 従来の補修方法  1.3 最近のASR劣化状況及びASR抑制の重要性  1.4 ASRリチウム工法   1.4.1 リチウムの膨張抑制効果   1.4.2 リチウムを用いた既往の補修方法とその問題点   1.4.3 ASRリチウム工法概要 | コンクリート構造物に生じたASR(アルカリ骨材反応)を抑制する補修工法 亜硝酸リチウムを主成分としたASR抑制剤をコンクリート中に圧入し、構造物全体のASR(アルカリ骨材反応)を根本的に抑制|ASRリチウム工法協会

アルカリ骨材反応抑制工法 ASRリチウム工法 技術資料(初版)
【第Ⅰ編 設計・施工基準】

1.概要

1.1 アルカリ骨材反応

 アルカリ骨材反応(AAR;Alkali-Aggregate Reaction)とは、セメントと骨材の反応によってコンクリートが膨張する現象を1940年に発見者のT.E.Stantonが名付けたものである。当初、AARはアルカリ・シリカ反応(ASR:Alkali-Silica Reaction)と同意義に用いられていたが、その後の研究により、現在では一般に下記の3種類に分類されている。この中で日本において最も多く見られるのは、アルカリ・シリカ反応(ASR)である。
 
 ①アルカリ・シリカ反応(ASR:Alkali-Silica Reaction)
  ・1940年にStantonにより発見(アメリカ)
  ・骨材岩石中のシリカ成分とアルカリ金属イオン(Na+、K+)が化学反応を起こし(反応リング)、吸水膨張性の
   ゲル状物質を生成する(反応生成物)。これが、水分の供給を受けることにより局部的容積膨張を生じ、
   コンクリートにひび割れを発生させる。(図1.1-1~図1.1-3参照)

 ②アルカリ炭酸塩岩反応(ACR:Alkali-Carbonate Reaction)
  ・1957年にSwensonにより発見(カナダ)
  ・ドロマイト質石灰岩とアルカリ金属イオンが反応

 ③アルカリ・シリケート反応(Alkali-Silicate Reaction)
  ・1975年にGillottにより発見(カナダ)
  ・骨材岩石中の粘土成分(シリケート)とアルカリ金属イオンが反応
  (アルカリ・シリカ反応の一種とする見解もある)

図1.1-1 アルカリ骨材反応のメカニズム

図1.1-1 アルカリ骨材反応のメカニズム

 一般にASRに起因する劣化は、膨張作用によりコンクリート表面に亀甲状あるいは部材拘束方向のひび割れが発見されることで初めて確認されることが多い。図1.1-4~図1.1-6に劣化事例を示す。

1.2 従来の補修方法

 ASRを生じた構造物には従来、以下に示す劣化因子の遮断を目的として主に表1.2-1に示すような対策が講じられてきた。

 ①外部からの水分の供給抑制
 ②内部からの水分の散逸促進
 ③外部からのアルカリの供給抑制

 その中で表面被覆工(呼吸型被覆材図1.2-1)及び含浸材塗布工(シラン系撥水材)は上記①~③全てに対して有効であるため、多くの補修事例がある。
表1.2-1 ASRによって劣化した構造物の補修・補強一覧「コンクリートの診断技術‘05[基礎編](日本コンクリート工学協会)に加筆」

表1.2-1 ASRによって劣化した構造物の補修・補強一覧
「コンクリートの診断技術‘05[基礎編](日本コンクリート工学協会)に加筆」

1.3 最近のASR劣化状況及びASR抑制の重要性

 ASR の膨張作用に起因するひび割れは、これまではコンクリート表面部分に発生し、鉄筋より内部には達していないと考えられていた。このため、前述のような表面部分に対する補修対策が行われてきた。しかし、昭和60年代に従来の工法で補修された構造物の中には劣化の進行によりひび割れの再発が見られるものもあり(図1.3-1)、橋脚等の部材断面の大きな構造物などでは、ASRの進行により内部においてもひび割れが発生している事例や(図1.3-2) 、さらには、コンクリートの膨張により鉄筋(主筋・配力筋)が破断した事例も見られることから(図1.3-3)、従来の対策では構造物によっては十分な補修効果が得られていない場合もあることが明らかになってきた。また、コンクリート強度および弾性係数が著しく低下してきている構造物も見られ(図1.3-4)、このような状況に至ると耐荷力の回復に多大な補強対策が必要となるため、そのような事態に至る前でのASRによる膨張の抑制が重要であると考えられる。

1.4 ASRリチウム工法

1.4.1 リチウムの膨張抑制効果

 リチウムがASRによる膨張を抑制するメカニズムは、“リチウムイオンが、反応性骨材との間で不溶性のゲル(非膨張性生成物)を生成するため、ナトリウムイオン、カリウムイオンとの膨張性アルカリシリカゲルの生成を防止(図1.4-1)し、膨張を抑制する"と考えられており、各種の研究報告等において、コンクリート中のアルカリ量に対してモル比0.5~1.5の範囲でリチウムが存在することにより、ASRによる膨張抑制効果を期待できるとの報告がある(図1.4-2)。

1.4.2 リチウムを用いた既往の補修方法とその問題点

 リチウムを用いた補修材料としては、亜硝酸リチウムあるいは水酸化リチウムを主成分とする抑制剤があり、ASRによる膨張を抑制する効果のあることが知られている。また、亜硝酸リチウムを主成分とする抑制剤は亜硝酸イオンに鉄筋の腐食抑制効果があることから、断面修復材に混和して塩害に対する補修にも用いられている。これらリチウム系の抑制剤を使用したASRに対する在来の補修工法には、
 (1)対象象構造物の表面に抑制剤を塗布し、コンクリートに含浸させる工法
 (2)抑制剤を染みこませたシートを張り付ける工法
 (3)かぶり部分をはつり取り、抑制剤を混和した断面修復材で埋め戻す工法
があり、これらの工法は、いずれもコンクリート表面から内側への濃度勾配による拡散効果およびセメントマトリックスの毛細管現象により抑制剤が内部に向かって浸透・拡散し、コンクリート中の反応性骨材に作用することによりASRによる膨張の抑制を期待するものである。しかし、上述の従来工法では、内部に抑制剤が浸透する距離は、コンクリート表面より数cm程度であるのが実状である。このため、既往の補修方法では内部コンクリートに対する十分な補修効果が期待できない。
 

1.4.3 ASRリチウム工法概要

 本工法は、従来工法では困難であった、コンクリート内部でのASRの膨張抑制を主目的として、構造物に削孔した小径の孔(圧入孔)より、亜硝酸リチウムを主成分とした抑制剤を加圧注入(圧入)することで、構造物内部コンクリートの微細ひび割れを介して抑制剤を劣化範囲に効果的に浸透拡散させ、構造物内部のコンクリートの将来的な膨張を低減することにより、以後のASRによる劣化を抑制する工法である。
 図1.4-3にASRリチウム工法のイメージ図を示す。
図1.4-3 ASRリチウム工法 イメージ図

図1.4-3 ASRリチウム工法 イメージ図

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