アルカリ骨材反応抑制工法 ASRリチウム工法 技術資料(初版)
【第Ⅲ編 設計例】
1.道路橋 T型橋脚 梁部の事例
1.1 構造物劣化状況の整理
(1) 構造物詳細
①一般構造
道路橋 T型橋脚(梁部)
梁幅13.75m×梁高2.50m~1.00m(端部),梁厚 1.80m
のうち、対象躯体(梁部)体積46.2m
3 ②配筋図
無し(かぶり100mm)
③設計基準強度
24N/mm
2(2002年制定 コンクリート標準示方書[構造性能照査編]より、弾性係数の設計値;25,000N/mm
2)
(2) 外観劣化状況
①ひび割れ状況
ひび割れ延長 136m(幅0.2~3.0mm)/ひび割れ密度 1.6m/m
2 ASR特有の亀甲状ひび割れが発生しており、ひび割れ幅は拡大する傾向が見られた。
(3) コンクリート物性
①圧縮強度・弾性係数
圧縮強度;22.5~26.3N/mm
2,弾性係数;9,600~12,000N/mm
2 (設計基準強度を下回る試験結果があり、弾性係数もASR劣化構造物特有の低下傾向が見られる)
②促進膨張試験結果
データ無し
③アルカリ量分析試験結果
データ無し;(現場施工時、アルカリ量分析を実施し、抑制剤量の見直しを行うことが望ましい)
(4) 補修履歴
無機系注入材(材料名;不明)によるひび割れ注入工の補修履歴があるが、表面被覆工による補修履歴はない
1.2 構造物に対する適用性の検討
促進膨張試験結果が無いため、将来的に有害な膨張を生じるかどうかをコアの膨張量により判定することはできないが、圧縮強度・弾性係数の低下、および発生しているひび割れの性状やひび割れ幅が拡大傾向にあることから、【第Ⅰ編 設計・施工基準】2.1 適用範囲より、本構造物のASRによる劣化は【加速期(Ⅲ)】と推察され、本工法の適用範囲に該当している。
1.3 設計抑制剤量、濃度の検討
・設計抑制剤量はコンクリート中のNa
+に対してLi+のモル比1.0と設定する。
・アルカリ量分析結果が無いため、過去の実績よりコンクリート中のアルカリ総量(Na
2O量)を5.0kg/m
3と仮定して
設計抑制剤量の算定を行う。
・施工時期は5~8月(西日本)の予定であったため、ASR抑制剤(亜硝酸リチウム水溶液)は高濃度の40%水溶液
とする。
・下表より、設計抑制剤量は988kgとする。
(設計抑制剤量 21.37kg/m
3×46.2m
3=987.3≒988kg)
1.4 圧入孔(パッカー種別・圧入孔長)の検討
・かぶりは100mmであるため、パッカー長150~200mmとする。
・深部存置長は鉄筋かぶりが100mmであるため、100×1.5 = 150mmとする。
・パッカーはシングルパッカー(φ34mm)で設定する。
・圧入孔削孔長 L = 1,800-200-150 = 1,450mm
1.5 詳細圧入仕様の検討
(1) 設計注入圧力および上限注入圧力の設定
・上限注入圧力
圧縮強度;26.3N/mm
2 表4.6-1 より 上限注入圧力 0.7MPa とする。
・設計注入圧力 0.5MPa
(2) 詳細圧入仕様の検討
①設計注入圧力、圧入孔間隔、圧入孔本数
・設計注入圧力は0.5MPaと設定する。
・圧入孔間隔は750mmとし、【第Ⅰ編 設計・施工基準】4.5および4.6に従い、次頁の図のように基本配孔を
設定する。
・圧入孔本数は次頁の図のように60孔となった。
②圧入孔1本当たりに圧入する抑制剤量Q(m
3)
・設計抑制剤量;988(kg)/1.25/1000=0.790(m
3)
Q=設計抑制剤量/圧入孔本数=0.7910/60=0.013(m
3)
③圧入に要する時間t(hour)、設計圧入日数T(day)
ここに、
Q:圧入孔1孔あたりに圧入する抑制剤量(m
3)
q:時間当たりの圧入量(m
3/hour)
k
α:抑制剤の圧入のしやすさに関するパラメータ。コンクリートの圧縮強度に応じて
【第Ⅰ編 設計・施工基準】4.6中の表4.6-1の値を内挿補間するか、
【第Ⅱ編 設計圧入日数の算定方法(案)】の経験式を参照して設定する (m/hour)
k
α=7×10
-6・e
-0.0892×26.3=6.7×10
-7 P:設計注入圧力(=0.5)(MPa)
ρ:抑制剤の密度(=1,250)(kg/m
3)
g:重力加速度(=9.8)(m/sec
2)
L:部材厚(=1.8)(m)
D:圧入孔径(=0.034)(m)
圧入に要する時間t(hour)は
t = Q/q (hour)
= 0.013/5.77×10
-5=225 .30(hour)
このとき、T:設計圧入日数(day)は一日あたりの圧入時間を8時間とすると
T = t/(一日あたりの圧入時間)
= 225/8=28.2≒29 (day)
1.6 表面シール工・補助工法含めた全体フローの検討
(1) 表面シール工(ひび割れ注入工)
鉄筋腐食に対する耐久性確保およびASRリチウム工の際、躯体表面からの抑制剤の漏出・漏洩防止を
目的として幅0.2mm以上のひび割れに対してひび割れ注入工を行う。ひびわれ注入材は、ASRによる劣化が
未収束なことや温度変化によるひび割れ幅の季節変動が予想されるため、追従性の高いエポキシ樹脂系
弾性タイプを用いることとする。
(2) 表面シール工(表面被覆工)
ASRリチウム工の際、躯体表面の微細なひび割れからの抑制剤漏出・漏洩防止を目的とし、表面シール工を
行う。本構造物においては、ASRリチウム工施工完了後の保護塗装に指定がないため、表面シール工は、
ASRに対して効果が期待できる塗膜材として、有機無機複合型塗膜材を用いる。
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